お金が無ければバイトを増やせばいいじゃない!

経緯はこうであった。
あれは一昨日の、バイト明けの休日のことだ。
久しぶりの労働に疲れ果てた僕は、たっぷり昼ごろまで眠っていた。
目は覚めたには覚めたが、身体のほうは疲れが残ってだるかった。
のろのろと朝食の準備をする。
その時、2通の封筒が届けられた。
郵便受けがないので、それらは引き戸の窓枠に挟み込まれた。
それでもすぐに取りに行かず、味噌汁をすすり洗濯をして、縁側で一服してから、ようやく気付いたように郵便物を取りに行った。
2通とも宛名は地元の役場からだった。
1通は僕の字で書かれた返信用封筒であった。そこには以前に郵送を頼んだ所得証明書が入っていた。
しかし、もう1通は皆目見当がつかなかった。
おそるおそる開けてみる。
そこには「村県民税(普通徴収)」の文字が書かれた、振込用紙が入っていた。
納付額は7万円弱。それを月末までに収めろとのお達しであった。

いきなり舞い込んできた多額の督促状で、視界がぐにゃりと曲がった。
そして、これまで何度も繰り返してきた月末までの胸算用が、音を立てて崩れた。
この督促状は、僕が住民票を移したりなんやらで、役場との交渉を持ったことによって寝た子を起こしたようである。
社会人になってから役場との手続きを一切行わず、波風立てないようにしてきた結果、3年目にしてようやく単純に住むだけでも税金がかかるのだということを、身を以って知らされた。
僕は督促状の数字を新たに加えて、収支を計算し直した。
どうやり繰りしても、結果はアカであった。
先輩の結婚式のご祝儀や携帯代や、この引っ越しで発生した他での借金を支払うだけでも精一杯なのに、さらに住民税を払うなんぞ、どだい無理な話であった。
しかし、なんとかしなければ、取り返しのつかないことになる。
1通の郵送物が、新たにし始めたばかりの僕の生活を脅かし始めた。

魚雷を受けて大穴が空き、大量の海水が流れ込んだ潜水艦が沈まないよう、搭乗員を閉じ込めてでもハッチを密閉するシーンが、漫画やフィクションの世界で描かれている。
それと同じようになるたけ我が身の負担を減らすため、削れる支出は削らなければならない。
ベットに腰かけ、頭を抱えながら考えた。
何度もやり直したが、どうしても結婚式の参列を見合わせなければならなかった。
大学時代に大変お世話になった先輩の結婚式である。
意気揚々と出席の連絡をした分、身を引きちぎられるような思いをした。

連絡がついて事情を説明し、頭を下げながらの電話が終わった後、僕はなし崩し的に両の手で顔面を覆った。
今すぐにでもこの世から消え去りたかった。
深い絶望感に打ち遣られた僕は、何もする気が起きず、何もかもが嫌になってベットに横たわって目を瞑った。
どうしてこうも金のことがついて回るのか分からなかった。
金金金で本当にうんざりする。
僕はそんなことばかり考えたくないのに、いつの間にか考えざるをえない状況に陥ってしまった。
知らず知らず「死にたい」という言葉を繰り返している。
こんなに追いやられたのは、久しぶりのことだ。

ものすごく死にたくなった晩の翌日はバイトであった。
寝て少し頭がすっきりしたのか、落ち着いて考えられるようになった。
痛い目にあって支出を減らしたが、住民税は解決していなかった。
しかしよく考えると、向こう側の要求はあまりにも無理があるように思われた。
風呂を吹きあげ、シーツを整えているなか、役場の督促からとんずらすることばかり考えている自分がいた。
(「あ~ばよ~、銭型のとっつぁ~ん!」「まて~い!ル~パ~ン!」)
休憩時間になると、バイトの先輩方が談笑している最中に「実はかくかくしかじか・・・」と切り出して、相談してみた。
「大変やなあ。でも払わんと差し押さえられるしなあ」
「!?」
前言撤回。やはり役場の追跡を煙に巻くのはリスクが高すぎる。
「あ、でも、分割払いもできるよ」
「えっ!?本当ですか!」
「うん、聞いてみたら」
思いがけない朗報を聞いて、僕は安心した。
そして今日電話で問い合わせて、何とか5分割にしてもらえることになって、僕は胸を撫で下ろした。

しかしまだまだ問題が山積している。
向こう5カ月に出金するであろう金額を月別にまとめてみると、どうも今のバイトの給料では不安が残る。
今回の住民税のように、僕の知らないところから督促状を突き出してこられるか分からない。
出し抜けに現れる支出に対して、今の収入だけでは、また身を脅かされることになる。
僕はラブホテルの清掃とは別に、朝刊配達のバイトを掛け持つことにした。
そして、明日が面接だ。

う~ん、どうも生活が楽にならない。
「あなたはお金が貯まらなわね」という3年前に先斗町の占い師が僕に突き付けた予言が、今になって思い出される。